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地方自治体が目指す地域交通のあり方~コミュニティバスや電動バスの役割と可能性~

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2023/05/26

マイカー所有が一般的になったクルマ社会では、地域交通の利用者数が減少し、民間交通事業者の不採算路線からの撤退や運行回数の減少などの問題が深刻化しています。
公共交通空白地域をカバーするため、コミュニティバスや電動バスといった地方自治体が運営する地域交通の果たす役割に注目が集まっています。
本記事では、コミュニティバスや電動バスの導入背景や特徴、課題について解説します。

 

地域交通におけるコミュニティバスや電動バスの役割

クルマ社会における地域交通の役割とは何なのでしょうか。
国土交通省は、地域公共交通に求められる役割として次の4つを挙げています。

地域住民の移動手段の確保

自動車を運転しない住民や学生、高齢者、障害者、妊婦等にとって、地域公共交通は主要な交通手段となります。
特に高齢者ドライバーは交通死亡事故の増加から免許返納が増加傾向にあり、地域公共交通を利用することは交通事故の抑制にも役割を果たしています。

コンパクトシティの実現

コンパクトシティとは住民の生活圏を一定範囲内にまとめた都市のことです。
病院や学校、商業施設のある中心市街地とその周辺に拠点地区が形成されます。
中心市街地と拠点間、各拠点間を結ぶ交通手段となるのが地域公共交通です。

まちのにぎわいの創出や健康増進

「歩いて暮らせるまちづくり」は、都市機能が中心市街地にコンパクトに集積したアクセスのしやすいまちを目指したものです。
公共施設や商業施設が集まった場所への外出の機会が増えることで、街ににぎわいが生まれます。
地域公共交通機関を使って移動することは歩くことにもなるので、健康増進にもつながります。

人の交流の活発化

地域住民だけでなく観光客等の来訪者も地域公共交通を利用します。
来訪者が移動する際の利便性や回遊性が向上することによって、多くの人々が行き交うようになり、人との交流が活発化します。
参考:国土交通省「地域公共交通の現状と課題」
https://wwwtb.mlit.go.jp/hokushin/hrt54/com_policy/pdf/H28startup-koutuukikaku.pdf

自治体が運営するさまざまなバス

自治体が運営するバスには、都道府県や市町村が運営する乗合バスやコミュニティバスがあります。
各地で民間の路線バスが廃止される中でコミュニティバスを導入する自治体は増加傾向にあり、コミュニティバスの注目は高まっています。

コミュニティバスとは

コミュニティバスの先駆けと言われているのが1980年に運行開始した武蔵村山市内循環バスです。
その後、1980年代から1990年代にかけて日野市ミニバスや武蔵野市ムーバスが運行を始め、コミュニティバスが全国各地に広がっていきました。
地域に応じて運営方式なども異なり多種多様ですが、一般的にはコミュニティバスは従来の路線バスが運行していない地域を補完する公共交通サービスであると考えられています。
「コミュニティバスの導入に関するガイドライン」(国土交通省)においても、コミュニティバスとは「交通空白地域・不便地域の解消等を図るため、市町村等が主体的に計画し運行するもの」と記載されています。
コミュニティバスを導入する最大のメリットは、利用者の利便性の向上です。
利用者の要望に応じて運行経路や時間帯などを決定できるからです。
単に交通空白地域の移動手段を充足させるだけでなく、高齢者・障害者支援といった福祉面、道路交通混雑の緩和といった環境面、地域活性化の側面から導入することもあります。

参考:国土交通省「コミュニティバスの導入に関するガイドライン」
https://www.mlit.go.jp/common/000193649.pdf

電動バスとは

コミュニティバスの導入目的の一つに環境面があったように、近年ではCO2 排出量削減の取り組みが課題となっています。
そこで注目されているのが電動バスです。
自治体が運営するバスにも電動バスが導入されるようになってきています。
電動バスの特徴には次の3つが挙げられます。
①ゼロエミッション(走行時に大気汚染物質やCO2が出ない)
②低騒音・低振動、快適な乗り心地
③災害時に電力供給源として活用
電動バスには排出ガスが一切なく、走行騒音も大幅に減少するといったメリットがあります。

美濃加茂市コミュニティバス「あい愛バス」

美濃加茂市は、岐阜県の南部に位置する人口約57,000人の都市です。
コミュニティバスである「あい愛バス」は2000年10月より運行を開始しました。
利用者数は伸び悩んでいましたが、2017年10月に大幅な再編が行われて運行ルートや頻度・車両が一新されたことで利用者が増加するようになりました。
2021年度は過去最高の利用者数(106,927人)となり、再編前である2016年の利用者数の6.7倍になっています。
あい愛バスには以下の特筆すべき特徴があります。

全路線でスマートフォンによるバスの位置情報システムを導入

2023年5月現在、あい愛バスには9路線あり、各路線で1日8便を毎日運航しています(12月31日から1月2日を除く)。
あい愛バスは、全路線でスマートフォンのSNSアプリであるLINEを使ったバス位置情報システム「MOQUL(モークル)」を導入しています。
バスの現在位置をLINEの画面でボタンをタップするだけで確認できるので、バス利用者の利便性の向上につながっています。

県内で初めてコミュニティバスに導入された電動バス

美濃加茂市は2021年に「ゼロカーボンシティみのかも宣言」をしました。
この宣言は、脱炭素社会に向けて2050年の二酸化炭素の実質排出量ゼロに取り組むことを表明したものです。
あい愛バスにおいても車両の更新を進めていく際には可能な限りエンジン車から電動車への転換を推進するとしています。
実際に2022年に電動バス1台が導入され、同年3月7日より運行を開始しました。
岐阜県内ではコミュニティバスに電動バスを導入した初の事例となっています。
導入された車両は、中国の電気自動車メーカーBYDの小型電気バス「J6」です。
J6は31人乗りの小型バスで、以下のような特徴があります。
・ 走行中の CO2 排出がゼロ
・ 約 200kmの航続距離(乗車率 65%、エアコン不使用)
・ ノンステップ仕様
・ 災害時には非常用電源として活用可能

 

コミュニティバスや電動バスの今後の課題

地域交通を支える手段として期待されるコミュニティバスや電動バスですが、安定した運行を続けていくためには課題もあります。

深刻化する運転手不足

バス業界全体で運転手不足が課題となっています。
運転手不足の背景には、輸送人員の減少に伴うコスト削減によって運転手の負担が増加するにも関わらず待遇は悪化しているという状況があります。
また、二種免許取得者自体の減少や高齢化、高校新卒者の採用が難しく中途採用に依存、トラック業界との人材の取り合いなどもあります。
コミュニティバスも例外ではなく、コミュニティバスの入札を実施しても運転士がおらず入札不調に終わる例も出ています。

デマンド型交通への移行

路線バスやコミュニティバスなどに替わる運行形態として注目されているものに「デマンド型交通」があります。
デマンド型交通とは、利用者の予約に応じる形で運行経路や運行スケジュールを利用者のニーズに合わせて運行する地域公共交通です。
乗客のいない「空気バス」を走らせることがなくなるため、輸送効率の向上や自治体の費用負担の軽減が期待されています。
国も新規にデマンド型交通を設定する場合に補助金を交付するなど、従来の路線定期型交通からデマンド型交通への置き換えを後押ししています。
このことからコミュニティバス廃止という流れにつながることも予想されています。

 

まとめ

地域交通として利用されているコミュニティバスや電動バスは、地域住民の移動手段の確保としてだけではなく、コンパクトシティの実現や地域活性化などの役割を果たしています。
例えば、岐阜県美濃加茂市のコミュニティバス「あい愛バス」は、路線の再編やバス位置情報システムの導入などにより利便性を向上させ、カーボンゼロシティの推進のために電動バスを導入するなどさまざまな取り組みを進めています。
しかしながら、地域交通の運行継続については運転士不足やデマンド型交通への移行といった課題もあり、今後の動向が注目されます。
(執筆者:山口 史 )

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