保育園のバス事故から垣間見える保育現場の問題とは
幼稚園・保育園のIT化 時事ニュース
2021/10/22
2021年7月、福岡県の保育園にて園児がバスに取り残され死亡するという痛ましい事故が起きました。
同様の事故は日本各地で起きており、決して珍しいケースではありません。
なぜこのような事故が起きてしまうのか、保育現場の隠れた問題と改善策をご紹介します。
保育園バス事故の実態
2021年7月29日、福岡県中間市の「双葉保育園」で倉掛冬生くん(5歳)が送迎バスにおよそ9時間取り残され、熱中症により死亡しました。
当時バスを運転していた園長はほかの園児の対応に追われ、冬生くんの座っていた後部座席を十分に確認しなかったそうです。
バスには園長しか乗車しておらず、同乗の先生がいませんでした。
また冬生くんがいないことを担任の先生は気付きながらも、保護者へ確認することもなく欠席扱いとしていたとのことです。
このことから、バスにおける園児の確認不足、また保育士間の連携不足が伺えます。
送迎バスに同乗者がいないことは違法?
双葉保育園のように、送迎バスに運転手しか乗車していないというケースは法律違反になるのでしょうか?
実は保育園の送迎バスには統一された基準がなく、運行方法や規定は園や自治体任せになっています。
同乗者の義務もないので園長しか乗車していないことは法律違反には当たりません。
とはいえ法律で定められている水準は最低限のルール。そのまま普段の運行に適用すればよいというものではありません。
法律で規定されていなくても安全な保育を維持するうえでは、同乗の先生をつける・園児の降車確認や忘れ物の確認を徹底するといった対策を行う必要があります。
しかし実際の保育現場では、人手不足などの理由で細部まで目が行き届かない現実があります。
保育現場の抱える問題とは、いったいどのようなものなのでしょうか。
保育現場が抱える課題とは
保育業界では離職率の高さと慢性的な人手不足が問題となっています。その背景にはどのような原因があるのでしょうか。
人手不足による業務過多
保育現場では常に人手不足に悩まされています。そのため保育士一人ひとりの業務負担が大きく、過酷な労働環境が離職率を高めています。
保育士の業務内容は子どもの保育だけではなく、保護者の対応、連絡帳やお便りなどの文書作成、イベントの準備など多岐にわたります。システム化がなかなか浸透していないこともあり手作業も多く、自宅に仕事を持ち帰るといった時間外労働も少なくありません。
そういった労働環境が家庭との両立を難しくしており、結婚や出産を機に退職する保育士が後を絶ちません。
またそういった事情が、保育士免許を持ちながらも保育士として働いていない潜在保育士たちの復帰を阻む要因にもなっています。
業務に見合わない給与水準
保育士の平均給与額について、厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査」では全国平均で約24万円、年間賞与も含めた年収では約363万円と公表されています。
この額は決して低いわけではありませんが、「子どもの命を預かる」という責任の重い仕事であることや時間外労働が多いことを勘案すると、業務内容に見合った額だとは言いにくいのが現状です。実際に多くの保育士が、給与の低さを理由に離職しています。
こういった現状に内閣府は「保育士処遇改善加算」制度を新設、保育士に対し「処遇改善手当」を支給する体制をつくりました。
このように徐々に改善はされているものの、まだまだ十分な水準ではないのが現実です。
複雑な人間関係ストレス
東京都福祉保健局が発表した「平成30年度東京都保育士実態調査報告書」によると、保育士が退職する理由で最も多いのが「職場の人間関係」とされています。
園という閉鎖的な環境であることや園の経営方針・教育方針とのズレ、女性が多い職場だからこそ気を遣うなど、様々な人間関係に悩まされているようです。また保護者からのクレームに気を遣うといった、保育業界特有の人間関係ストレスもあるようです。
保育現場の課題を解決するには?
国や自治体では、現在働いている保育士への処遇改善をはじめ、潜在保育士への復職支援、新規資格取得者に対する制度の新設などを行っています。
具体的にどのような対策がなされているのでしょうか。
保育士資格を取得しやすくする
国は人材育成の側面から、保育士資格を取得しやすくしています。これまで年に1回だった保育士試験を年2回へ拡充、「地域限定保育士」制度を新設しました。
「地域限定保育士」とは国の指定した特定地域で一定期間保育士として働くことで、自治体に登録してから3年経過したのち、4年目以降は全国で働くことが可能になります。
この制度により保育士の資格を取得する機会を増やし、保育士不足を解消するといった狙いがあります。
保育士の処遇改善
保育士が離職してしまう大きな要因の一つに、低すぎる給与という問題があります。こういった実態を踏まえ厚生労働省は、2015年に「処遇改善加算」を新設しました。
この制度はこれまで役職を基準としていた給与加算を、勤続年数による加算へと変更。役職に就いていなくても勤続年数が長くなればなるほど加算率も高くなるので、待遇の改善が見込まれます。
ほかにも保育士から主任保育士までの間に段階的な役職を新設することで、給与に追加加算できる制度や、キャリアアップ研修制度の導入により昇進や処遇改善がしやすくなりました。
潜在保育士へのフォローアップ
深刻な人手不足を解消するには、潜在保育士の活躍が鍵を握っています。
厚生労働省の発表によると、2018年時点で現場で働いている保育士の数は約59万人であるのに対し、保育士の資格を持ちながらも現場で働いていない潜在保育士の数は約95万人、その割合は61%を占めるそうです。
なかでも時間単位勤務で復職したいと希望している人は7割にものぼるため、潜在保育士が活躍できるよう時短勤務やシフト制を取り入れるなど、柔軟な勤務体制を整えることが急がれます。
また現場から離れていた不安を軽減するために、研修や復帰支援制度、保育士マッチング強化プロジェクトといった再就職支援を実施しています。
保育現場におけるICT化の推進
保育現場でのICT化は国や自治体が積極的に進めている施策であり、保育士の大幅な業務負担軽減が期待されています。
保育記録や子どもの出欠管理、保護者への連絡など、煩雑で手間のかかる作業をシステム化することにより、効率的な保育運営が実現します。
保育士一人ひとりに余裕ができることでミスの見逃しや確認不足といった漏れが予防でき、子どもと向き合える安全な保育につながります。
送迎バスの位置情報LINE通知システム「モークル」の導入事例
ヨーロッパやアメリカでは「子どもの安全な通学」に対する意識が高く、保育現場でのICT化も積極的に進められています。
ヨーロッパの自動車安全テスト「Euro-NCAP」では2022年より社内に置き去りにされた子どもを検知するシステムを安全評価対象に加えることを発表しており、フランスの自動車部品メーカー「ヴァレオ」は幼児置き去り検知システムを開発しています。
このように送迎バスにおける「子どもの安全を守る」という意識は世界的に高まっており、日本も国や自治体を上げて対策を講じていく必要があります。
送迎バスのICT化においてモークルのアプリでは、保護者の快適なバス利用を促進するだけでなく、バスに取り付けられた車載器により運転手の急ブレーキや急ハンドルを記録・分析し、事故防止効果を発揮します。
岐阜県中津川市の「学校法人緑ヶ丘学園 誠和幼稚園」では、実際に園児の送迎バスにモークルを導入、日々のバス運行に役立てています。
導入前はバスが遅延した際、保護者からの問い合わせに時間を取られ、よりバスが遅れるという悪循環があったといいます。
しかしモークルを導入することで保護者が直接バスの位置情報を確認できるようになり、問い合わせも激減。運転手はバスの運転に集中することができ、より正確なバス運行ができるようになりました。
園で待機している先生も問い合わせの対応がなくなり、ほかの業務に集中できるようになりました。
モークルアプリはその使い方のシンプルさから、多くの保護者の方に利用していただいているようです。
ICT化は導入後もうまく運用できるよう、なるべくシンプルに必要な機能だけを導入することが大切です。国や自治体からもシステム導入費の一部が助成金として支給されるので、一度検討してみることをおすすめします。
保育現場での事故を防ぐ為に
保育園や幼稚園といった保育の現場では、大人が気を付けていてもいつ何が起こるか分かりません。普段から緊急時の対策を子どもと共有しておきましょう。
福岡県の双葉保育園のようにバスに取り残されるといったケースの場合、「運転席は触ってはいけないよ」「窓ガラスは叩いちゃダメ」といった普段の言いつけを、いい子であるほど守ってしまいます。閉じ込められた時には「クラクションを鳴らして周りに知らせようね、窓ガラスを叩いて騒ぐのだよ」という対策を、普段から教えておきましょう。
そして事故を根本的に防ぐ保育士不足の解消、ICT化による業務効率化、保育士の待遇改善などが急がれます。
まとめ
- 保育業界では離職率の高さと慢性的な人手不足が問題となっている。
- 事故を根本的に防ぐ保育士不足の解消、ICT化による業務効率化、保育士の待遇改善などが急がれる。
- 送迎バスの位置情報LINE通知システム「モークル」は、保育士の業務負担を軽減できる。