【連載シリーズ第3回/全7回】スクールバスのルートはどう決める?
スクールバス
2026/08/03 (更新日:2026/08/01)

【連載シリーズ 第3回/全7回】学校統廃合とスクールバス
第1回はこちら:学校統廃合でスクールバスはいつから検討する?3自治体の計画書から見る導入スケジュール
前回の記事では、スクールバスは運行開始がゴールではなく、開始後も運転手不足や車両調達、運用改善など、継続的に向き合うべき課題があることをご紹介しました。
今回は、スクールバス計画の中でも特に検討に時間がかかる「運行ルート」の決め方について取り上げます。ルートは、地図上に線を引けば完成するものではありません。試走、住民との調整、時刻表づくりなど、いくつもの工程を経て、ようやく安全に運行できるルートが出来上がります。
ルートは机上の検討だけでは決まらない
スクールバスのルートを検討する際、まずは地図上で候補ルートを描き、対象となる児童生徒の居住地や既存の道路網をもとに大まかな案を作ります。
しかし、地図上では問題がないように見えるルートでも、実際に走ってみると次のような課題が見つかることがあります。
- 大型車両が通るには道幅が狭い箇所がある
- 見通しの悪い交差点やカーブがある
- 朝夕の時間帯だけ交通量が多く渋滞が発生する
- 積雪や路面凍結などの季節要因で通行が難しくなる
- 踏切や狭い橋など、通過そのものが困難な区間がある
こうした問題は、地図や統計データだけでは見つけにくく、実際に現地を確認して初めて分かることが少なくありません。
何度も試走を重ねることの重要性
そのため、ルートの検討では、候補ルートを実際に走行して確認する「試走」が欠かせません。
試走は、一度で終わるものではなく、時間帯や季節を変えながら複数回行うことが望ましいとされています。例えば、次のような観点で確認します。
- 朝の登校時間帯・夕方の下校時間帯それぞれの所要時間
- 雨天時・積雪時など天候による走行状況の違い
- 他の車両やスクールバス同士がすれ違えるか
- 停留所付近での停車・発車のしやすさ
- 実際に使用する車両(マイクロバスなど)のサイズでの走行可否
特に、これから開校する学校の場合は周辺道路の交通量や整備状況が数年単位で変化することもあるため、開校が近づいた段階で改めて試走を行い、計画時点との差異がないかを確認することも重要です。
試走を重ねることで、机上の計画段階では見えなかったリスクを事前に洗い出し、安全なルートへと修正していくことができます。
バス停の設置には住民の理解と協力が欠かせない
ルートが固まってくると、次に検討するのが停留所(バス停)の設置場所です。
停留所は、児童生徒が安全に乗り降りできる場所であることはもちろん、次のような条件も踏まえて検討する必要があります。
- バスが安全に停車・発車できるスペースがあるか
- 雨天時に児童生徒が待機できる場所があるか
- 夜間や早朝でも周囲が見渡しやすく安全か
- 私有地や地域の慣習上、駐停車に配慮が必要な場所ではないか
停留所の候補地には、道路脇の公共スペースだけでなく、集落の集会所前や個人宅付近の道路など、地域の生活に密接した場所が挙がることも珍しくありません。
実際の事例として、富山市では、学校統廃合によって廃校となった旧校舎の敷地を、そのままスクールバスの停留所として活用しています。児童生徒にとっては、これまで通っていた学校に集合すればよいため、新しい場所を覚え直す心配が少なく、保護者の理解も得やすかったといいます。加えて、旧校舎の敷地はもともと車両の出入りを想定した造りになっているため、バスが安全に駐停車できるスペースを確保しやすいという利点もありました。
また、病院の駐車場のように、朝の時間帯は利用者が少ない民間施設の駐車場を、地域住民や施設側の協力を得て停留所として活用しているケースもあります。こうした「空いている時間帯の空間」を地域から提供してもらう発想は、停留所用地を新たに確保する負担を減らすうえで参考になる工夫です。
一方で、すべての自治体がこうした好条件の用地を確保できるわけではありません。適当な空き地や施設が周辺にない地域では、やむを得ず一般道路の歩道の一部を停留所として利用するケースもあります。この場合、バスの駐停車によって後続車両の通行が妨げられたり、乗降中の児童生徒の近くを車が通過したりすることで、渋滞や事故のリスクが懸念されます。
このように、停留所の確保しやすさは地域の施設事情によって大きく左右されるため、廃校施設や公共・民間施設の駐車場など、既存のスペースを活用できないかを早い段階から検討しておくことが、安全な停留所づくりにつながります。
そのため、停留所の設置には、行政や学校の判断だけでなく、自治会や地域住民への説明と理解を得るプロセスが欠かせません。実際に、多くの自治体の計画書でも、地元説明会やアンケートを通じて住民の意見を聞きながら停留所の位置を調整していく進め方が取られています。
住民の理解が十分でないまま停留所を設置すると、後から「バスの音や光が気になる」「駐停車で近隣に迷惑がかかる」といった声が上がり、運行開始後にルートや停留所の見直しが必要になるケースもあります。事前の丁寧な合意形成が、開校後のトラブルを防ぐことにつながります。
時刻表の作り方
ルートと停留所が固まったら、次は時刻表の作成です。時刻表は、単純に「何分間隔でバスを走らせるか」を決めるだけではありません。
主に、次のような要素を組み合わせて検討します。
- 始業・終業時刻から逆算した登下校の時間帯
- 試走で計測した各区間の所要時間
- 停留所ごとの乗降にかかる時間
- 複数便・複数ルートがある場合の車両の運用(何台で何便まわすか)
- 部活動や学年ごとの下校時刻の違いへの対応
- 悪天候時や行事による時刻変更のルール
特に、部活動をしている生徒とそうでない生徒とでは下校時刻が大きく異なるため、便を分けるのか、それとも特定の便のみ対応するのかといった方針を早い段階で決めておく必要があります。方針が曖昧なまま運行を開始すると、現場での混乱や、保護者からの問い合わせが増える原因にもなります。
また、時刻表は一度作ったら固定というわけではなく、実際の運行状況(遅延の傾向や乗降時間の実績など)をもとに、開校後も微調整を重ねていくものです。この点は、前回ご紹介した「運用を改善し続けることの重要性」ともつながります。
時刻表を難しくしている要因は、便数や所要時間の設計だけではありません。学校のスケジュールそのものが、日によって細かく変わることも大きな課題です。
通常授業の日だけでなく、次のような日は下校時刻が変わります。
- 部活動がある日
- 短縮授業の日
- 午前授業のみで終わる日
- 教員の研修・出張などによる日
- 始業式・終業式の日
こうした変則的な日程は、年間を通じて決して少なくありません。そのたびにスクールバスの時刻表を作り直すのは、運行事業者にとっても学校側にとっても大きな負担になります。
しかし、時刻表の変更を怠ると、保護者にとって困った状況を生むことがあります。例えば、「今日が短縮授業の日であることを知らず、いつもの時間に迎えに行ってしまった」というように、保護者の送迎や自宅での待機の予定と、実際の下校時刻がずれてしまうケースです。
このような事態を防ぐためには、時刻表を柔軟に作り直せる体制を整えるだけでなく、変更内容を保護者へ確実に、かつ分かりやすく伝える方法も併せて検討しておく必要があります。学校からのお便りやメール配信、LINEなどの通知手段をどのように組み合わせるかも、時刻表づくりと切り離せない検討項目だと言えるでしょう。
まとめ
- スクールバスのルートは、地図上の検討だけでなく実際の試走を通じて確定させる
- 試走は一度きりではなく、時間帯・天候・季節を変えて複数回行うことが望ましい
- 停留所の設置には、地域住民への説明と理解を得るプロセスが欠かせない
- 時刻表は、所要時間・乗降時間・部活動対応などを踏まえて作成する
- 短縮授業や行事などによる下校時刻の変動にも対応できる体制と、保護者への伝達方法を用意しておく
- ルートや時刻表は、開校後も運行実績をもとに見直しを続けるものである
スクールバスのルートづくりは、地域の道路事情や住民の生活と密接に関わる作業です。効率だけを優先せず、安全性と地域の理解を丁寧に積み重ねていくことが、長く安定した運行につながります。
次回予告
ルートや停留所が決まっても、「誰がスクールバスを利用できるのか」という利用対象の線引きは、自治体ごとに悩ましい課題の一つです。
次回は、「スクールバスの利用対象はどう決める?」について、距離基準や地域ごとの事情を踏まえながらご紹介します。
この連載の記事一覧
- 第1回:学校統廃合でスクールバスはいつから検討する?3自治体の計画書から見る導入スケジュール
- 第2回:学校統廃合でスクールバス計画は完成しない 運行開始後の「運用」を考えることが重要です
- 第3回:スクールバスのルートはどう決める?(この記事)
- 第4回:スクールバスの利用対象はどう決める?(8月5日公開予定)
- 第5回:学校設計とスクールバスの関係(8月7日公開予定)
- 第6回:保護者説明会でよくある質問(8月10日公開予定)
- 第7回:スクールバスICT導入のタイミング(8月12日公開予定)






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