連載シリーズ 第4回/全7回】学校統廃合とスクールバス
スクールバス
2026/08/05

【連載シリーズ 第4回/全7回】学校統廃合とスクールバス
第1回はこちら:学校統廃合でスクールバスはいつから検討する?3自治体の計画書から見る導入スケジュール
前回は、スクールバスの運行ルート・停留所・時刻表をどのように決めていくかをご紹介しました。試走を重ね、停留所の用地を確保し、時刻表を整えても、次に必ず突き当たるのが「誰がスクールバスを利用できるのか」という利用対象の線引きです。
今回は、スクールバスの利用対象をどのように決めるか、多くの自治体で共通する考え方と、判断が難しくなるポイントについてご紹介します。
利用対象を決める基本は「通学距離」
スクールバスの利用対象を検討する際、多くの自治体がまず基準にするのが通学距離です。
国の基準としては、文部科学省の通学条件の目安として、小学校でおおむね4km以内、中学校でおおむね6km以内が「通学可能な距離」の一つの目安として示されており、これを超える場合にスクールバスなどの通学支援を検討する自治体が多く見られます。
ただし、この距離はあくまで目安であり、実際の運用では次のような要素を踏まえて、自治体ごとに独自の基準を設けているケースがほとんどです。
- 学年によって基準となる距離を変える(低学年はより短い距離から対象にするなど)
- 道のりの距離だけでなく、坂道や交通量の多さといった通学路の実情を考慮する
- 積雪地域では、冬季のみ対象範囲を広げる、または通年で対象にする
- 統合前の学校ごとに異なっていた基準を、統合後にどう一本化するか
特に学校統廃合の場面では、これまで徒歩通学だった地域の児童生徒が、統合後は距離基準を超えてスクールバスの対象になる一方、既に基準ぎりぎりで対象外となる地域も出てきます。「なぜうちは対象外なのか」という保護者からの疑問に答えられるよう、基準の考え方をあらかじめ整理し、説明できる状態にしておくことが重要です。
距離以外にも考慮すべき対象者がいる
通学距離を基本としつつも、距離だけでは測れない事情を抱える児童生徒への配慮も必要です。例えば、次のようなケースです。
- 身体的な事情により、距離に関わらず徒歩通学が難しい児童生徒
- 指定通学路上に、通学路として危険と判断される箇所(見通しの悪い道路、熊や猪などの野生動物の出没が報告されている区域など)がある場合
- 豪雪地帯で、冬季のみ徒歩通学が困難になる地域
- 特別支援学級に在籍しており、個別の配慮が必要な児童生徒
これらは、距離基準に単純に当てはめることができないため、教育委員会や学校が個別に状況を確認し、対象とするかどうかを判断する必要があります。あらかじめ「距離基準を超えていなくても、安全上の理由で対象とする場合がある」という例外規定を計画に盛り込んでおくと、開校後の個別対応がスムーズになります。
「対象外」となる児童生徒への配慮も必要
スクールバスは、利用対象を決めるということは、同時に「対象外」となる児童生徒を決めることでもあります。
対象外となった保護者からは、次のような声が寄せられることも少なくありません。
- 基準まであとわずかの距離なのに、なぜ対象にならないのか
- 兄弟姉妹の一方は対象で、もう一方は対象外というのは納得できない
- 定員に空きがあるなら、対象外でも乗車させてほしい
特に、兄弟姉妹で学年が異なり、居住地からの距離の測定方法(学校までの直線距離か、実際の通学路に沿った距離か)によって対象・対象外が分かれるケースは、保護者の理解を得にくい典型的な例です。距離の測定方法や基準そのものを、事前に分かりやすく周知しておくことが、後々のトラブルを防ぐことにつながります。
また、定員に空きがある場合の「対象外児童生徒の乗車可否」についても、方針を決めておく必要があります。安全上・保険上の観点から対象者以外の乗車を認めない自治体がある一方で、空席の範囲内で有償にて利用を認める自治体もあり、対応は分かれています。
利用対象は固定ではなく、見直しが必要になることもある
一度決めた利用対象の基準も、開校後の状況変化によって見直しが必要になることがあります。
- 児童生徒数の増減により、通学区域そのものが変わる
- 宅地開発などにより、新たな居住エリアが生まれる
- 通学路の環境が変化する(新しい道路の開通、危険箇所の解消など)
- 他の通学支援策(コミュニティバスの新設など)との役割分担が変わる
利用対象の基準を「一度決めたら変えない絶対的なルール」として扱うのではなく、地域の状況に応じて定期的に点検し、必要であれば見直すという前提を持っておくことが望ましいでしょう。
まとめ
- 利用対象の基本は通学距離だが、多くの自治体が独自の基準を設けている
- 身体的事情や通学路の危険性、積雪など、距離以外の事情にも配慮が必要
- 対象外となる児童生徒・保護者への説明や、兄弟姉妹間の扱いには特に注意が必要
- 定員に空きがある場合の対象外児童生徒の乗車可否も、方針を決めておく
- 利用対象の基準は固定ではなく、地域の状況変化に応じて見直すことが望ましい
スクールバスの利用対象を決めることは、単なる線引きの作業ではなく、「どこまでを行政が支援すべきか」という判断そのものです。基準を明確にしつつも、個々の事情に配慮できる余地を残しておくことが、保護者の納得感につながります。
次回予告
スクールバスは、運行ルートや利用対象だけでなく、学校そのものの設計にも深く関わっています。乗降場の位置や車両の動線は、校舎の配置と切り離して考えることができません。
次回は、「学校設計とスクールバスの関係」について、具体的な検討ポイントをご紹介します。
この連載の記事一覧
- 第1回:学校統廃合でスクールバスはいつから検討する?3自治体の計画書から見る導入スケジュール
- 第2回:学校統廃合でスクールバス計画は完成しない 運行開始後の「運用」を考えることが重要です
- 第3回:スクールバスのルートはどう決める?(8月3日公開予定)
- 第4回:スクールバスの利用対象はどう決める?(この記事)
- 第5回:学校設計とスクールバスの関係(8月7日公開予定)
- 第6回:保護者説明会でよくある質問(8月10日公開予定)
- 第7回:スクールバスICT導入のタイミング(8月12日公開予定)





今すぐモークルの画面をお試し!